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ミルクの歴史
2003.10
現在市販されている育児用コナミルクは、母乳に近づける方向で、ホエー増強タイプになっています。牛乳を酸性にしていくと白っぽい凝固物(カード:カゼインというたんぱく質)が分離し、黄色っぽい上澄みが遊離してきます。この遊離してきた液体がホエー(乳清)です(なおプレーンヨーグルトは、牛乳を乳酸菌でゆっくり発酵させ、出来るだけホエーを分離させないようになめらかに凝固させたものです)。ホエー中には酸で凝固しないたんぱく質成分が含まれ、広くホエーたんぱく質と呼ばれています。牛乳に比べ母乳ではカゼインよりホエーたんぱく質の方が遙かに多いことから、育児用コナミルクではホエーを増強し、カゼインとホエーたんぱく質の比を母乳のそれに近づけているのです。
ホエー増強タイプミルクのメリットの一つは、ホエーたんぱく質は酸性下で凝固しないので、ホエー増強ミルクでは赤ちゃんの胃の中でハードカードが生じにくいこと、もう一つ上げれば、体内で生合成できない必須アミノ酸のパターンが優れているということです。それらの総合的なメリットとして、血液が酸性方向にシフトする代謝性アシドーシスを起こしにくいことが示されました。
しかし、一口にホエーたんぱく質と言っても牛乳と母乳では中身が違い、牛乳由来のホエーたんぱく質には、母乳中には含まれないβ-Lg(β-ラクトグロブリン)が含まれています。加熱によるソフトカード化処理によって、β-Lgのアレルゲン性(厳密には抗原性)は1/100程度にまで低下していると推定されますが、それだけでは十分ではなく、育児用コナミルクからこのβ-Lgを除くこと、あるいは減らすことは、乳児栄養にかかわっておられる小児科の先生方の長年の夢でした。そして最近、その夢が実現されました。
ホエーたんぱく質のうちのα-ラクトアルブミンを増量し相対的にβ-Lgの比率を下げたもの、ホエーたんぱく質全体を部分的に加水分解したもの、あるいはβ-Lgだけを選択的に分解したものなどがそれです。特に最後のものは、明治乳業の独自の技術によりβ-Lgだけを選択的に、80%ペプチドにまで分解し、それ以外のたんぱく質は"たんぱく質"として残したもので、小児科の先生方の長年の夢を実現させた画期的なものです。
このミルクについての臨床試験が、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎などの疾患を2親等以内の肉親(祖父母あるいは兄弟)が有している赤ちゃん(アトピー体質を有すると推定される)を対象にしてなされました(馬場 実ら:1993)が、凡そ1歳半の時点でのアトピー性皮膚炎の発症率は、従来の人工栄養に比べ3分の2以下に、そして驚くべきことに気管支喘息の発症率は、4分の1近くにまで低下したと報告されました。また生後4〜5ヵ月時、離乳食開始前の同じ乳児について調べられた血清中のβ-Lgおよび卵白に対する特異的免疫グロブリンE抗体陽性率については、β-Lgに対しては0、卵白に対しては、従来品に比べて陽性率が何と3分の1以下に低下していました。
●
アトピー家系児のlgE抗体陽性率(ラスト法)
(馬場実ら、第39回日本小児保健学会)
抗 原
No.8805群
市販調粉群
牛乳
β-Lg
卵白
4/51(7.8%)
0/47(0%)
7/42(16.7%)
6/41(14.6%)
N.T.
22/41(53.7%)
●
アレルギー家系児のアレルギー疾患診断率
(馬場実ら、第39回日本小児保健学会)
疾患名
No.8805群
市販調粉群
アトピー性皮膚炎
気管支喘息
18/71(25.4%)
4/71(5.6%)
16/41(39.0%)
9/41(22.0%)
※
No.8805群はβ-ラクトグロブリンを80%ペプチドに分解したミルクです。
このことは、これらのミルクを飲んだ赤ちゃんでは、アレルゲンに感作される(アレルゲンが侵入した時にアレルギーを発症する素地が出来上がる)確率がそれだけ下がったことを意味しています。母乳中にはたんぱく質という形のものが含まれていることを考えれば、たんぱく質の全てをペプチドにまで分解したものは不自然で、β-Lg以外のたんぱく質はそのまま残してあるミルクは、赤ちゃんの消化管の発達という面から見ても、遙かに自然に近いものと言えましょう。
このように今やお母さんは、アレルギーを起こす確率(厳密にはアレルゲンに感作される確率)を下げたミルクを"普通に使う"ことができるようになっています。しかし、アトピー素因を持つ赤ちゃんに対して有効だからと言っても、既に牛乳成分に対してアレルギー症状を起こしている(牛乳成分に感作されている)赤ちゃんに対してはこのようなミルクは使えません。既にアレルギー症状が出ている赤ちゃんのためには、牛乳たんぱく質(カゼイン、あるいはホエーたんぱく質)を酵素分解してアレルゲン性(抗原性)を1/10
6
、即ち100万分の1のレベルにまで低下させた「たんぱく質加水分解ミルク」を使わなくてはなりません。このような場合には小児科の先生にご相談ください。
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