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ミルクの歴史
2003.04
ひとの赤ちゃんは、もちろんひとの母乳で育てるのが一番ですが、もしその母乳が出なかったらどうなるでしょう。野生の動物では母乳が与えられなければ、仔獣は生きることができません。しかしひとには知恵がありました。人工乳を用いて赤ちゃんを育てる工夫をし、自然に任されることなく、繁栄を築いてきました。
とは言っても、昭和30年代の前半頃までは、人工栄養は一般には極めて不評で、発育は劣るし、何よりも消化不良が多く見られました。岡山大学小児科名誉教授の浜本先生が「1930年頃、私どもは毎夏、京都の大学で乳児栄養障害児の大群が死んでいくのを、ただ手をこまね悲しむだけでありました」と述べておられるような状態であったのです。
その後ミルクのレベルが向上するとともに人工栄養は格段に改善され、一般のイメージ評価も上りました。しかしその評価は、各時代のムードやミルクの発達レベルとも絡んで揺れ動き、紆余曲折がありました。
昭和30年代後半頃から人工栄養児の発育などが大変良好となり、母乳栄養児と比べて目に見える明らかな差が殆どなくなると、人工栄養の比率は急速に上昇しました。当時アメリカでは殆ど人工栄養で占められていたこともあって、日本の社会ムードとしても、ミルク栄養の方が近代的でスマートといった風潮さえ見られ、昭和50年頃には、母乳栄養の比率が20%台にまで低下しました。
母乳哺育の減少は世界的傾向で、これを憂慮したWHOや当時の日本の厚生省では、この頃から活発な母乳推進活動を展開しました。その効果は予想以上で、母乳第一主義の風潮は間もなく日本社会に定着しました。『しかしこれは、一面では母乳信仰ともなり、母乳の出ない母親は怠慢で、母親失格であるとか、あるいは逆にミルクは毒物であるとかいう行き過ぎの風潮も起こりました。当然人工栄養、混合栄養にせざるを得ない母親は強いコンプレックスと子どもの健康について強い不安感を持たされ、その結果、大なり小なりノイローゼの状態にさえなるひとが少なからず生じました。これは現在も続いており、大変憂慮すべき問題です。』(小児科医・総合愛育研究所客員研究員・医学博士・二木 武 他:母乳が足りなくても安心、1997 ハート出版 より)
お母さん、そんなに自らを追い込まないで下さい。近年のミルクは極めて優れた製品で、安心して使っていただけるものになっています。もちろん現在でも、母乳の機能に更に近づけようと、母乳の研究をしながら改良が続けられている訳ですから、母乳と同じになったというつもりは毛頭ありませんが、一所懸命に母乳哺育を志しているお母さんの支えにもなりうるものと考えています。
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